「30分遅れます」は何分待つの?経済学




趣味の読書ですが、基本的には自分の専門や関連する分野の本を読みます。

しかし、難しい専門書や分厚い本ばかり読んでいると疲れてしまうので、休憩がてらあまり専門とは関係の無いものや単純に興味を持った本(だいたい薄くてすぐ読めるもの)も読みます。


最近で言えば、前回の書評の『論理が伝わる世界標準の「書く技術」』や、有名なお坊さんの自己啓発本などを読みました。

ということで今回は、先日読み終えたばかりのこの一冊を紹介したいと思います。


佐々木一寿『「30分遅れます」は何分待つの?経済学』日本経済新聞出版社、2012年。


タイトルから分かるように、日常生活中における経済学的な事例を平易に説明したもので、古典的なものから比較的最新の経済学まで、そのエッセンスを感じることができます。

僕自身、以前の投稿で日常生活における便利な経済学について書いていたので、このような類の本は好みで、気になっていました。

本書にもある通り内容はかなりザックリしているので、経済学の入門書というよりは読み物と捉えて読む方が好ましいと思います。


そのためか、眉唾物な(僕には理解することができなかった)個所が見られました。

本書のタイトルにも使用されている、”「30分遅れます」と連絡が入った時、こちらは何分待つ準備をするべきか”という時間管理の問題に対して、著者は”乗数効果”によってその時間が割り出せるとしています。

乗数効果の説明を本書から引用すると、


乗数効果とは、ある需要に対して投資した時に、その投資額のウン倍もの効果を生み出すというマクロ経済的な現象が一例としてあります。


この乗数効果のメカニズムが時間管理にも応用できるとしています。


本書の例を引き合いに出すと、蕎麦屋の出前で、60分間の見込みで「あと30分」という時、実際の所要時間は乗数効果を用いると、

60+30+15+7.5+3.75+・・・・・60×0.5^n で、120分という答えが出ます。

すでに過ぎた60分を引くと残り60分で、つまり「あと30分」という時は、60分の時間がかかるということです。

この一例を見ただけでも、若干の違和感を感じます。
(60分の見込みであと30分と言って、60分も遅れてくる蕎麦屋など見たことがありません。)


何故、時間管理の問題に対して乗数効果を使うのでしょうか。


経済学における乗数効果とは、本書にもある通り”お金は使えば増える”といった経済現象において見られるものですから、それを時間管理に応用するのならば、それに対する論理的な説明をするべきだと思いました。


また、納期(時間)を守らせる―例えば夏休みの宿題を期限内に終わらせる―為にどうすべきか、という点で著者は、


これを防ぐ方法の1つには、開始日をコミットしてもらう、という方法があります。やり始めるまでグズグズして時間をロスする、ということを防ぐためです。また、開始日をコミットしてもらったら、その次には、何日後にできそうか、をコミットしてもらいます。これが実質的に締切日になります。


とありますが、人間に双曲的な傾向があることを考えると、これでは上手くいかないこともあるかもしれません。

おそらく開始日が来るまではその日から行うと決めていても、実際に開始日が来ると明日から…というように先延ばしにしてしまいます。

(これが前提だと思いますが)運良くコミットが実行されたとしても、大量にある夏休みの宿題を計画通りに進めることができるのでしょうか?


これに対して、現在の行動経済学で推奨されているのは、目標を小さく区分けする”段階アプローチ”と呼ばれるものです。

本章で提案されている方法と併せて、小さく区分けした目標の開始日と終了日をいくつもコミットするのがより良いと考えます。



今回の書評では批判的な部分を中心に述べましたが、読み物として面白かったですし、こういう本を読むことでアイデアが閃いたり、自身の精査の目を養うことができると思います。

何より息抜きに読む本としてはとても良かったです。

もし、本格的に学んだり、研究などに用いたいと考えるなら、その本が学者によって書かれたものなのかに注視する必要があります。


「この次は何を読もう」、と考えるのが読書の楽しみの1つだと思うのですが、考えると、厚い専門書を読んだ後に薄い簡単な本を読むのも、ある意味読書を楽しく続けるためのコミットメントなのかもしれません。

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